2020年5月23日土曜日

単体の家族が自由にアクセスして、もう少しゆるく、広く、『贈与関係』を結ぶような組織が必要~大谷直史さん(みんなの居場所ぽっと)インタビュー~

現在YokaYokaでは、余暇支援に関わっている方(主に余暇、遊び、居場所)を中心に、「明日何しようかな~余暇支援に関わる方へのインタビュー~」と称して、お話を聞かせて頂いています。

前回までは、コミュゲ研の加藤さんのインタビューを3回に分けて紹介させて頂きました。

今回から鳥取でみんなの居場所ぽっとという居場所を運営している大谷直史さんに、「居場所とゲーム」を中心に、様々なお話を聞かせて頂きました。お話を聞かせて頂いたのは、新型コロナウイルスによる影響が本格的になる前の2月の下旬です。視察も兼ねて、ぽっとには2泊3日お世話になりました。

今回も含め、4回に分けてこちらのブログにアップしていきます。
興味がある方は、是非読んでみてください。

家族に代わりうる『贈与』をベースにした組織、あるいは制度というものを作る必要がある

― まず、大谷さんから、『みんなの居場所ぽっと』が、どういった目的で活動しているのかを説明して頂いてもよろしいでしょうか?

大谷:上級バージョンでいきますか?

―初級と上級があるのですね。 じゃあ、まずは簡単な方でお願いします。

大谷:易しい方は、みんなが自由にやって来れる、どんな人でもやって来れる居場所を作りたい。そうゆうとこなんですが、とりわけ周辺部にいる人ですよね。僕等がやりはじめたのは不登校の子だとか、あるいは虐待を受けていたりする子もいるし、障害を持っている、特に発達障害が多かったけども、そういった子の特に放課後の居場所、不登校であれば一日中という形で、作ろうと思ってやってきました。現在は、様々なニーズがあって、学童保育に少し特化したような形になっているけど、基本的にメンバーシップをとらない。ふらっとやって来て、ただ居て帰るという、そういった場所にしたいと思っています。

― メンバーシップに捉われない居場所という点を大事にされているのですね。次に、上級者向けの説明をお願いします。

大谷:上級向けとの説明としては、NFOという形を目指して活動しています。

― NFO・・・ですか?

大谷:ここは説明が必要ですね。私達は、3つの経済で生きています。国と市場と家庭の3つ。絵を見ればわかりやすいのですが、市場は『交換』をする経済があり、国は『分配』する経済があり、家庭は『贈与』する経済があるという事になっています。歴史上を含む全ての社会が、これらのいずれかの経済のブレンドで成立していました。しかし、今は、市場世界がどんどん増えていき、国や家庭の経済までが市場を中心とする交換経済に飲み込まれそうになっている。そうゆう状況を見て、市場だけに任せておけないという形でNPO(Non-profit organization)が誕生した。もっと公正な市場を作る事を目的に活動しているエージェントがNPO。国が頼りにならないから自分たちで国際的な活動をはじめたのがNGO(Non-governmental organization )。この流れの中で、家庭が壊滅しているので、家庭の機能を助けるために、Non-Family Organization 、つまりNFOという形が必要である。という新しい三角形の経済を作っていく必要があるだろうと。だから、この家族に代わりうる『贈与』をベースにした組織、あるいは制度というものを作る必要があるのではないか。この『みんなの居場所ぽっと』は、その実験場になります。

― 映画等の作品の中で『疑似家族』というのがでてきますよね。血縁と異なるつながりを持った家族の形として。それは、NFOと近いのでしょうか?

大谷:近いですね。現実に、ステップファミリーやシングルの家庭という形も存在しています。必ずしも、核家族が普遍的なものではないという事が明らかになっている。でも、上手くいかないから、様々な家族形態が試みられている。あの『沈没家族』とか好きです。『沈没家族』は見ましたか?

―すみません。「沈没家族」は見てないです。『万引き家族』であれば・・・

大谷:『万引き家族』も家族を新しく作ろうとする試みですね。でも、新しい家族を作るより、単体の家族が自由にアクセスして、もう少しゆるく、広く、『贈与関係』を結ぶような組織が必要だと感じ、この「みんなの居場所ぽっと」を始めました。

― 様々な家族が『ぽっと』という場所を媒体にゆるくつながる事ができる。それが、NFOの役割ということでしょうか?

大谷:もちろん、直接的な『贈与』も受ける・・・『子ども食堂』とかね。ここにきてご飯食べるだとか、一緒に遊ぶとか、そういった事もします。

― 以前、人が住んでいるところで『居場所』をやる事に意味があると、大谷さんが答えている記事を見た事があります。この考えはNFOに関係していますか?

大谷:それは、また別ですね。いわゆる施設等の仕事として対人サービスをやっていくと、直ぐに市場社会に飲み込まれてしまう。『贈与』関係をベースとした居場所をやるのであれば、絶対生活の延長としてやらないといけないと感じていました。それで住んでいるところでやりたかった。開かれた家族といってもいいかもしれない。すべては、『贈与』関係に持っていくための作戦。


緒に場所を共有してしまっている事に意味がある。共有している事で、何かが生じて偶発的な関りが生まれる

― 先ほどの経済の話に関係しているかもしれませんが、『分配』とは文字通り分けて配る事ですよね?政府は、税を徴収し、分配する。『交換』は、物と価値を交換する。つまりは貨幣経済ですよね。『贈与』の場合だけ、何かを与えるという、一方的な関係ですよね?この『贈与』における与えるという関係性は重視していますか?

大谷:最初は、不登校の子ども達との関りから始めたという事もあり、人間関係がうまくとれなかったり、コミュニケーション弱者に関心があったので、僕もその一員ではあったのですが、そういう人々にどうアクセスするというかな・・・人間関係は、『分配』できない。たとえ『分配』できたとしても、分配された友達なんかいらないといって上手くいかない。同じように、『交換』、つまりはお金で人間関係を買うことができるのかといえば、たぶんそれはできない。だから、『贈与』しか関係性を与えられない。『贈与』を活性化するしかない。独居老人の問題等の人間関係を提供するには、不平等だけど『贈与』しかないと考えています。

― そもそも『贈与』は、不平等な関係性なのでしょうか?

大谷:『贈与』は、不平等でしか成立しないと思っています。特定の人と仲良くすると、他の人と仲良くできない。ある人と付き合うと他の人と付き合っていけない事になっていますよね。これは不平等ですよね?

― 特定の人と仲良くするために自分の時間を割くと、それは『交換』になっているような気もしますが・・・不平だけど、『交換』が成立しているような感じがします。

大谷:いや『交換』は、平等ですよ。風俗は『平等』ですよね?お金さえだせば、誰でもアクセスできる。市場経済は、非常に平等な経済。ところが、贈与経済は不平等です。ある人と結婚すると、他の人と結婚できない。それは、非常に不平等だと感じています。少し危ない言い方になるかもしれませんが、その不平等さを緩和して、この『ぽっと』に来れば、誰でも『家族』になれるという事を目指しています。

― それは、疑似家族のような規定の家族の形に捉われないということでしょうか?

大谷:親密な関係性をランダムに与える。だから、メンバーシップもできるだけとらない。メンバーシップとると、メンバーとメンバー以外で区分して、不平等になってしまう。ここに居る人とたまたま来た人も、同じというふうにしたい。

― 『居場所』として場所を構えてやっているのは、アクセスできる事を利点と捉えているからでしょうか?

大谷:―緒に場所を共有してしまっている事に意味がある。共有している事で、何かが生じて偶発的な関りが生まれる。例えば、おならすればくさいか・・・そうゆう関りをたくさん生じさせたいと思っています。たぶん、それは場所がなくても、例えば、オンラインでも構わないという話になるかもしれないけど、一緒に同じようにアクセスしても、オンラインだとおならがくさいとかわからないですよね。

― つながっていても、同じ空間にはいないので感じませんよね。

大谷:こうやって話しているのを、あの子が勉強をしながら背中で聞いている。別に、そこに意味はないもしれないけど、居る事によって生じてしまっているような感じにしたい。

― どの言葉が適切かわからないですが、空間を共にすることで、直接的なコミュニケーションではない、居ることによる何かが生じているというという事でしょうか?

大谷:そうです。それが大事だと思っています。

次回の更新をお待ちください。

みんなの居場所HP:https://potpot.localinfo.jp/

大谷直史さん(鳥取大学 教育支援・国際交流推進機構 教員養成センター 准教授)
北海道大学教育学研究科博士後期課程単位取得退学。専門は、社会教育学、 環境教育学。他者理解やコミュニケーション促進のツールとしてボードゲーム の開発・作成を行う。鳥取市に「みんなの居場所『ぽっと』」を設立、不登校の 子どものケアや子ども食堂の運営など、長年にわたり子どもの居場所づくりを 行っている。「ヒトトイロ」というボードゲームのデザイナーでもある。

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