2020年4月20日月曜日

「上手に話すことより、楽しくはなすこと」~加藤浩平さん(コミュゲ研)インタビュー(3/3)

現在YokaYokaでは、余暇支援に携わっている方(主に余暇、遊び、居場所)を中心に、「明日何しようかな~余暇支援に携わる方へのインタビュー」と称して、お話を聞かせて頂いております。

今回で、加藤さんのインタビューは最後になります。

1回目のインタビューでは、加藤さんが余暇支援に関わるきっかけを中心にお話を聞かせて頂きました。
「まあ、1回ぐらいなら」と参加したTRPG 続けているうちに参加者に!!~加藤浩平さん(コミュゲ研)インタビュー(1/3)~ 

2回目のインタビュー記事では、ASD児を取り巻くコミュニケーションの環境を中心にお話を聞かせて頂きました。
余暇活動の場で聞く彼らの息苦しさ その中で感じた余暇の重要性~加藤浩平さん(コミュゲ研)インタビュー(2/3) 

3回目となる今回は、余暇支援の現場で意識をしている点や大事にしている点をお話して頂きました。そして、最後に加藤さんが代表と務めるコミュゲ研の今後の活動についてもお聞きしています。

支援する側・支援される側の関係ではなく、一緒に楽しむ仲間でありたい

― 余暇活動支援の中で意識している点はありますか?

加藤:色々ありますが……1つは教育的にならないという事でしょうか。教えたり、諭したり、指導したりしない。一般的に人には教える欲というものがあって、意識していないとつい出てきてしまう。

― まあ、シャア・アズナブルも言ってますね。俗人は、つい自分はこう言う人を知っていると言いたくなる癖があるといったことを……

加藤:もっというと、上の立場から、マジョリティの常識という物差しで、子どもの発言や行為を「それは好ましい行動」「それは良くない行動」と言っていたら、たぶんそこで面白くなくなる。ボランティアで手伝いに来てくれる方の中には、特別支援教育を学ぶ学生や、現役の学校の先生やスクールカウンセラーなどをされている方もいますが、TRPGの中で「そこはそうせずに仲良くした方がいいんじゃないかな?」とか「(敵のモンスターが)かわいそうだからやめてあげなよ」という言い方をする人もいて、なんて言えばいいのか…。

― 諭すような感じの?

加藤:そうですね。つい大人から見て好ましい行動を取らせるような、言うなれば学校教育的な指導になってしまう、そうすると、子どもの中には「ここも学校と同じか」と冷める子もいるし、または無理に適応してしまい自分らしさが出せなくなる子も出てくる。ボランティアの方も良かれと思ってやっていることなのですが、なるべくそういう教育的な関わり方ではなく、同じTRPGやゲームを楽しむ仲間として関わって欲しいとお願いしています。その上で、余暇を共に楽しむ仲間として好ましくないと思ったら、「そういう言い方はやめて欲しい」というのは構わないと思います。言うべき時は言う。特別扱いしない。

― 加藤さんの余暇支援の話を伺っていると、一緒に楽しむということを非常に大事にされているように感じます。支援者的立場にならないとかいう……そういった事は常に意識されているんですかね?

加藤:支援する側・支援される側の関係ではなく、一緒に楽しむ仲間でありたいと思います。その中で、関わる側が時として人生の先輩として語るときもあれば、時として子どもに教えを受ける立場にもなったり。たとえば「趣味トーク」という活動では、参加する子どもたちは、自分の好きなものを持ってきます。

― この前のYokaYokaでの講座でも内容を紹介してもらいました。

加藤:子どもたちの「好きなもの」に対する情熱はすごいです。以前「趣味トーク」に参加した女の子は『文豪ストレイドッグス』というアニメが好きで、中でも中原中也が推しで、中也の詩は全部暗唱できると言ってました。

安心と安全が保障されている中でこそ、自分らしさを出せるし、素で過ごせる


- かっこいい! 「汚れちまつた悲しみに」とかですよね?

加藤:僕より遥かに詳しいので、色々と教えてもらっていました。そこで交わされているものは、一方的な指導とか支援じゃないんですよね。とにかく、一緒に楽しむし、僕も話すけど、子どもからも教わる。上から目線でやっていたらできないです。好きなものを熱く語ってもらうのに、支援者が上から目線でいたら話が進まないというか、気持ちよく話せませんし、そもそも楽しくない。「楽しく話すこと」を一番大事にしています。楽しいから、自発体にしゃべる。同時にそのポジティブさがあるので、周囲もその話を面白く聞きたいと思って耳を傾ける。「上手に話すことより、楽しく話すこと」というのは、藤野博先生の著書の引用ですけど、私のような会話を扱う余暇活動支援の中で、とても大事にしているコンセプトです。世間一般は、つい「上手に話すこと」を求めてしまうきらいがあるので。

― 本とかもそうですよね。これで変わるあなたのコミュニケーション、みたいな感じの本が多いですよね?

加藤:私自身も、その手の本は苦手ですね。それで変わるか変わらないかよりも、「コミュニケーション」という他者との関係性の中で行われるものを個人の訓練でなんとかしなきゃいけない思わせてしまう社会の風潮が息苦しいです。僕はコミュニケーションの研究者ですが、そんなにみんなが上手なコミュニケーションをしなくて良いと思っています。仕事などであれば、求められる情報を伝えるコミュニケーションは必要だと思いますが、今の世の中には、必要な情報を共有するコミュニケーションというより、何となくなれ合うというか、その場をやり過ごすというか、そんなコミュニケーション力が集団の中で求められてしまうときがある。コミュニケーションは大事だけど、周囲が「このコミュニケーションに参加しろ」と強要するべきことでもないと思うし、上手じゃない(というかその集団で多数派に合わない)コミュニケーションを「コミュ障」と蔑んで負の価値づけをするべきでもないと思います。

― 「空気を読む」という言葉が出てきたのが、まさにそれですね。象徴的な言葉だと思います。

加藤:知り合いのある芸人が「空気なんて見えないものは読める訳ない」と断言していましたが()、空気を読む・読まないで悩むぐらいなら、それぐらい吹っ切れても良いと思います。「空気」って、その集団で多数派なだけで、場所が変われば価値も変わります。あと、余暇支援の中で大事にしていることは、安心・安全ですね。安全は、もちろん事故がないようすることも含めてですが、子どもたちは安心と安全が保障されている中でこそ、自分らしさを出せるし、素で過ごせるので、余暇の場として大事なことだと思っています。それから、安心・安全に関連して大事にしていることは、「相手を否定するような言葉や態度はしない」という約束はしています。そこだけ指導的になってしまいますけど、もし参加者の子どもが他の子の好きなものを否定するような言葉を使ったら、「それは絶対やめて」と言います。事前にも約束事として伝えます。「趣味トーク」であれば、自分の好きなものを、安心して語り表現する、TRPGであれば、自分で作ったキャラクターを通じて物語に参加するという部分を否定しない。そこを否定することを許す環境にはしないようにしています。以前、「趣味トーク」に参加してくれた子が「ここが自分にとってのオアシスだ」と言ってくれました。やはり、余暇活動の場が彼ら・彼女らにとってホッとできる場所であることは重要だと思っていて、安心して子どもたちが過ごすことができる環境調整やファシリテートはしています。


コアはコミュニケーション障害よりも、ASDのある人に特有の認知・感覚特性というもので、それらの特性が他者との関わりにも影響している


― 「コミュゲ研」のTwitterで、余暇に関して発信する時に、他者の存在を重要視していますよね? コミュニケーションで言えば、僕が以前読んだ本の中に、1人で喋っている事は独り言だけど、他人がいるとそれは語りになるというのを見て。僕は他人によって変わるものはあると思っていますが、加藤さんは、余暇において他者の存在は意識されていますか?





加藤:他者がいるからこそ語りになるというのは、僕もそう思います。知的障害や発達障害のある子どもたちの余暇支援の研究者の中には、1人で過ごす余暇活動や彼らが学習や就労以外の時間を適切に過ごす余暇スキルを身につけさせる支援を重視していている方もいて、僕が取り組んでいるTRPGや趣味トークに対して、1人で過ごすことを好んでいる自閉症のある人を無理矢理(本人が望んでいないのに)集団に参加させているんじゃないか、と批判されることもあります。

― 加藤さんが批判を受けるということですか?

加藤:受けることがありますね()。僕ももちろん一人で過ごす時間も大切だと思っています。人と交流する余暇活動を第3の場と呼ぶ一方で、一人で家族にも邪魔されずにリラックスして過ごす場を「ゼロの場」と呼んでいます(どの「場」も人が生きるのに不可欠なものです)。一方で、海外の研究者による成人のASDの方を対象にインタビュー調査では、ASDの人たちも同世代との仲間との活動を求めているという報告があります。また、国内でも世田谷区で発達凸凹のある若者たちを対象に余暇活動を展開している「みつけばルーム」が、利用者さんを対象に実施した調査でも、「みつけば」の活動に参加して良かったこととして「対人」、つまり人との関りがあったという部分に言及している人が半分以上いたそうです。僕自身も余暇活動の研究をしながら、発達障害のある10代の子たちは、他者との関わりができないのではなく、他者との関わり方や距離の取り方が分からなくて悩んでいたり、本人がよかれと思ってやっていることが、相手と合わなかったりして、それらの失敗体験が積み重なって、他者との関わる意欲が落ちてしまっているように感じています。僕はASDのある人の社会的コミュニケーションの障害という面に関しては、障害のコア(核)ではなく、ある意味で二次障害のようなものだと思っています。

― 不登校とかと同じということでしょうか。

加藤:不登校と一緒がどうかは分かりませんが、コアはコミュニケーション障害よりも、ASDのある人に特有の認知・感覚特性というもので、それらの特性が他者との関わりにも影響していると考えています。例えば、認知特性の違いのような部分が背景にあって、11のコミュニケーションは問題ないけれど、3人以上になると、どこに焦点を当てれば良いか分からず、意識が拡散して、話も聞き逃してしまったり、一生懸命集中して聞いて、凄く疲れてしまったりする。あとは対人関係での失敗の印象が強く残ってスルーできない。実際そういう体験を話すASD当事者の方もいます。そういう日常の中では、コミュニケーションの方法を会得し成功経験を積み上げるのは難しいと思います。その結果が、コミュニケーション障害と出ているのであって、コアな部分は社会的コミュニケーションの障害というものとは別にあると思ってコミュニケーション支援の研究をしています。だから、訓練型の支援よりも環境調整がベースにして子どもたちと関わっています。なお、環境という面で見れば、他者も環境の一つなんですよね。

- なるほど!

加藤:環境の1つである他者とのやり取りから人は多くのことを学びます。なので、余暇活動において他者(スタッフ)の存在は大切だと思っています。TRPGや「趣味トーク」などの余暇支援の場でも、大学生などのボランティアスタッフに子ども集団の中へ入ってもらっていますが、そこでの関係は平等(同じ活動を楽しむ仲間)であると同時に、子どもたちにとっての将来像のモデルにもなっていると思います。「社会人として活動しながら、TRPGやアニメ・漫画・ゲームを趣味にしている人生の先輩」という形で。まあ、他者が環境の1つというのは、余暇活動に限った話ではないですが(たとえば、教室においては、学校の先生方の存在も環境の一つですし)。

― まだまだ、お話聞きたいのですが、時間が来ちゃって……最後に加藤さんの今後の余暇活動支援の展開について教えてください。

加藤:最近は、これまで介入研究的に実施していたTRPGなどの余暇活動支援を、「特別な場所でできる特別な活動」で終わらせるのではなく、コミュニティ(地域)の中で楽しめる余暇活動に広げていこうと思っています。都内のTRPGカフェやボードゲームカフェを利用したり、地域の発達障害の子を持つ親の会主導の会で実施したり、という取り組みを数年前から進めています。実際に、私たちの余暇活動に参加しているASDのある子の中には、TRPGのゲームマスターになったり、TRPGカフェやボードゲームカフェに自ら遊びに行ったりして、余暇を自主的に楽しんでいる子もいます。あと、子どもたちと一緒にTRPGなどの余暇活動を遊んでくれる協力者を「双方向」から募集することを始めています。双方向というのは、「特別支援支援にかかわる人たちの中で、TRPGに関心のある方々にTRPGを知ってもらう」というのと「TRPGを趣味としている方々の中で、子どもたちとのTRPGに関心のある方々にプレイヤーまたはGMとしてご協力いただく」というそれぞれの立場から協力者を募集するという。発達障害や発達凸凹のある子どもたちと一緒にTRPGという冒険に同行してくれる人たちを増やしたいと思っています。『指輪物語(The Lord of the Rings)』から言葉を借りて「『旅の仲間』プロジェクト(The Fellowship of the RingFoR Project)」と名付けて、今後も定期的なTRPG体験講座および、支援プレイヤー講座等の企画を検討しています。それらの活動は、「コミュゲ研」のTwitterFacebook、あと、東京学芸大学の藤野研究室で取り組んでいる「日曜余暇プロジェクト」(通称「サンプロ」)のホームページなどでも紹介していきたいと思っています。

- まだまだ、話したいのですが、お時間になってしまいましたのでまた機会があったら、お話をききたいと思っています。今日は、本当にありがとうございました。

加藤:ありがとうございました。

加藤浩平(かとう・こうへい)さんプロフィール
東京学芸大学教育学部研究員・非常勤講師、教育学博士。編集者として専門書(心理・教育)の企画・編集に携わりつつ、発達障害のある子どもや青年たちの余暇活動支援・コミュニケーション支援の研究に取り組んでいる。著書(いずれも共著)に、『自閉スペクトラムの発達科学:発達科学ハンドブック10』(新曜社)、『発達障害のある子の社会性とコミュニケーションの支援』(金子書房)など

0 件のコメント:

コメントを投稿