2020年4月11日土曜日

余暇活動の場で聞く彼らの息苦しさ その中で感じた余暇の重要性~加藤浩平さん(コミュゲ研)インタビュー(2/3)

現在、YokaYokaでは、余暇支援に携わっている方を中心(主に余暇、遊び、居場所)に、「明日何しようかな~余暇支援に携わる方へのインタビュー~」と称してお話を聞かせて頂いております。

前回は、コミュゲ研の加藤さんが余暇支援に関わり始めたきっかけを中心にお話を聞かせて頂きました。2回目となる今回は、ASD児をとりまく環境やコミュニケーションを中心に関するお話を聞かせて頂きました。

前回のインタビューの内容は、下記からご覧いただけます。

「まあ、1回ぐらいなら」と参加したTRPG 続けているうちに参加者に!!~加藤浩平さん(コミュゲ研)インタビュー(1/3)~

そもそもコミュニケーションそのものを楽しむということ、「人と話すって楽しいな」と子どもたちに思ってもらえるようなものを、どう子どもたちに伝えるか・体験してもらうか、ということが重要


― 加藤さんは、発達障害のある子のコミュニケーションを促進するTRPGの中の要素の1つとして「柔らかい枠組み」を挙げていますね。それが、いわゆる環境調整という面に近いと思いますが、どうしても、自閉症や発達障害のある子への支援はSST等の訓練的なプログラムをこなしていくというのが多いですね。



加藤:発達支援・特別支援の観点から見て、TRPG には参加者相互の会話を促進する要因がある、と思っていて、そのことは論文や書籍などでも紹介しています。ルールなどの「柔らかい枠組み」はその1つです。ほかに「キャラクターを介しての間接的なコミュニケーション」「役割(ロール)の明確さ」などがあると考えています。話を戻すと、特別支援教育の分野では、長年にわたりコミュニケーショントレーニングやSSTなどの訓練型の支援がメインになっているとは思います。何かしら「これが正解、望ましいやり方」というものを教えこむというか。正しい挨拶の仕方とか。それ自体を全て否定はしませんが、同時に、そもそもコミュニケーションそのものを楽しむということ、「人と話すって楽しいな」と子どもたちに思ってもらえるようなものを、どう子どもたちに伝えるか・体験してもらうか、ということが重要だと個人的には思っています。これは私の師匠でもある東京学芸大学の藤野博先生から聞いたエピソードですが、ASDの子にSSTを療育機関で実施したとき、その子が療育の場でも家でも教えられた通り挨拶ができるようになって、療育スタッフもお母さんもその子を褒めながら、「学校でもやってみようね」と言ったら、その子が、「え、学校でもやらなきゃいけないの?」と言ったという……専門的な言い方では「学んだ行動の般化ができない」とか言うかもしれませんが、僕としては、要するに(学んだことを)使いたいと本人が思えるかどうかが大事だと思っています。

― だから、発達障害のある子たちの余暇活動の中でのコミュニケーションの体験が大切だということでしょうか。



加藤:少し話が飛びますが、僕が、TRPGや「趣味トーク」という余暇活動に取り組んでいる中で大事にしていることは、子ども自身が、本人のしゃべりたいことをしゃべる体験を保障することです。それらの場でのやり取りは、もしかしたら、周囲の大人が望んでいたり期待したりしている表現方法や内容ではないかもしれないですが。ただ、僕は、子ども本人が「話したい」という想いをベースに会話する体験を積み上げていくほうが結果として、彼ら・彼女ら自身が使える表現を自分で選べるし身に付くと思っています。本人がモチベーションを維持できないコミュニケーションは、無理に使っても不自然になるし、付け焼刃的になるように思います(一方で、「本人らしくない・ある意味で不自然なコミュニケーション」が必要な場も社会の中にはあるとは思いますが)。

― よく「学校ではできてます」と言われることを、家に全く持って帰ってこないというのは、本人が使いたいと思ってないのだろうなと。

加藤:子ども自身のモチベーションもあると思います。TRPGに参加した子の親御さんの話を聞くと、TRPGでどんなことがあったかを報告する子が結構います。親に伝えたいと思う活動だから家に帰ってから話すんでしょうね。もちろん、話さずにTRPGで楽しんだ物語を自分の中でだけ味わっている子もいます。

― 本人の「伝えたい・楽しい」といった気持ちを大事にしていく中で、楽しみながらコミュニケーションをするという点では、TRPGはとても良かったわけですね。「趣味トーク」もそうですよね?

加藤:本人が(上手に話すよりも)楽しく話すことを大事にした活動、という意味では、TRPGも「趣味トーク」も、障害の有無に関係なく非常に良い活動なんだろうなと思ってやっていますね。

その子が変わり、本人が安心して、自分らしく何かを表現できれば、それがその子の生きる糧、エネルギーになる



― コミュニケーション支援の方から入って、様々な気づきがあったというのはお聞きしてわかったのですが、加藤さんはコミュニケーション支援の専門家であると同時に余暇支援の研究者でもありますよね? 余暇支援というのは、どういった経緯で取り組もうとか、研究しようと感じたのですか?

加藤:僕は専門書の編集者を生業としていますので、学校教育の現場には関われず、子どもと関われるのは土曜・日曜になります。それで、必然的に余暇活動支援になった、というのはあります。ただ、だから余暇活動支援の研究をしたというのではなく、余暇活動という場で発達障害のある子どもや若者たちと関わる中で、ふと彼らが呟く学校や家庭で感じている息苦しさを聴くんですね。「ここ(余暇活動の場)だと、クラスメイトや家族の目を気にせずに好きなことがしゃべれる」と言った子もいます。そんな中で、学校でもない家庭でもない、余暇活動という場の重要性を感じました。

- YokaYokaの講演会でも仰っていた「第3の場」ですね。

加藤:あと、従来の問題を抱えている子の認知を変えるとか問題行動を減らす・なくすという介入方法とは別の方法で、発達障害のある子が社会にアクセスする方法を模索したい、というところもあります。個人が変わる支援というのは、成人の方であれば「就労のために必要」ということでご本人にモチベーションがあるし、就学前の子であれば、お母さんに連れてこられたから参加するということがあるかもしれませんが、思春期や10代の子どもたちがモチベーションを維持するのは中々大変だと思います。


 例えば、ASDの診断があるA君がいわゆる普通の子と言われるB君とコミュニケーション面でのトラブルがあった時に、先生がA君だけを取り出して、「君はみんなと仲良くする為にコミュニケーションの練習しようね」と言ってもA君は納得するだろうか、と思います。僕がA君だったら、「なんで僕だけがそんな支援を受けないといけないのか?」と感じると思います。あくまでも細かい背景を無視しての例えですが。以前YokaYokaで講演会をさせていただいた時にも引用しましたが、東京大学先端研の研究員でASD当事者の綾屋紗月さんが「コミュニケーションは両者の間に起きるものなのに、なぜそれをコミュニケーション障害という診断名をつけて、片方のせいにできるのか。一体、誰がこの状況に困って診断名を付けているのか」と仰っていますが、私も同じことを感じています。


綾屋紗月さん関連のおすすめのリンク
【音声配信】発達障害啓発週間、イチから知ろう発達障害▼綾屋紗月×熊谷晋一郎×荻上チキ▼2019年4月8日(月)放送分(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」平日22時~)


― それは、僕も、現場にいて感じますね。評価する側が使う言葉としては、便利な言葉だなと。その代わり、コミュニケーションという双方で作っていくものが、結局自分に責任がないという……相手を責めるための便利な言葉になっているというのがあって。阿部利彦先生の本の中で、こっちが変わっていけば、向こうも歯車が連動するように変わっていくというのが、現場では中々伝わらないというのはあります。

加藤:実際には、他人を変えるより、自分が変わるほうが労力は少ないんですよね。もちろん、自分を変えることだって楽ではないし、大変ですが……話を戻しますと、そもそも、「子どもの問題行動を直す」という考え自体が、僕の中にあまりなく、むしろ、環境が変わることで(この場合の環境は周囲の大人たちという人的環境も含みます)、その子が変わり、本人が安心して、自分らしく何かを表現できれば、それがその子の生きる糧、エネルギーになるのではないかと思いながらやっていて、それが結果として余暇活動支援という形になっている、というところもあります。

― 取材がきっかけでボランティアスタッフになり、その中での活動を通じて疑問に思ったことを研究したり実践したりしていったら、余暇活動支援という言葉が適切だった、という感じでしょうか?

加藤:そんな感じですかね……自分がやっていることをどの言葉で表わすか模索していたら、そこ(余暇活動支援)に着地したというか。

次回の更新をお待ちください。(2020 5/16更新)

加藤浩平(かとう・こうへい)さんプロフィール



東京学芸大学教育学部研究員・非常勤講師、教育学博士。編集者として専門書(心理・教育)の企画・編集に携わりつつ、発達障害のある子どもや青年たちの余暇活動支援・コミュニケーション支援の研究に取り組んでいる。著書(いずれも共著)に、『自閉スペクトラムの発達科学:発達科学ハンドブック10』(新曜社)、『発達障害のある子の社会性とコミュニケーションの支援』(金子書房)など



加藤さんが代表を務める団体のHP:サンデープロジェクト




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