現在、YokaYokaでは、余暇支援に携わっている方を中心(主に余暇、居場所、遊びに携わる方)に、「明日何しようかな~余暇支援に携わる方へのインタビュー」と称して、お話を聞かせて頂いています。
余暇支援に携わっている方のきっかけやエピソードを知る事により、障害福祉や教育に関わる1つの方法として、"余暇支援"を選択肢として思い浮かべて頂けたらと思います。
1回目のインタビューは、コミュゲ研の加藤浩平さんにお話を聞かせて頂きました。コミュゲ研の加藤さんは、2019年の10月5日、2020年の2月2日と計2回YokaYoka主催の講座「TRPGで楽しくコミュニケーション」で講師を務めてくださいました。講座では、コミュゲ研で行っている、TRPGを通した発達障害の子どもや青年のコミュニケーションを支援についてのお話と実際にTRPGの体験を行いました。
TRPGとは
"TRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム)とは、複数名で集まってテーブルを囲み、参加者同士の会話のやり取り(コミュニケーション)で架空の物語を進めていく「会話型ゲーム」の総称です。『ドラゴンクエスト』などのコンピュータのRPGのシステムや世界観はTRPGが元になっています。ただ、TRPGは基本的にコンピュータを使用しません。代わりに、紙と鉛筆、ダイス(サイコロ)、そしてルールブックを使用します。
「売れてよかった」という思いと別に、「なんで、こんなに売れたのか?」ちょっと納得いかないところがあって・・・
― 最初に、加藤さんが余暇支援をはじめたきっかけを教えて頂けますか?
加藤:そもそも発達障害の世界に関わり始めたのは、編集者としての取材でした。当時は発達障害者支援法(2005年施行)が成立する前で、自閉症のある子どもたちの親の会や通級指導教室や特別支援学級、特別支援学校、精神科クリニック、療育施設、作業所などの福祉施設を取材しているうちに、親の会や支援団体が土日に行っている余暇活動をボランティアで手伝うようになっていました。
10年以上前、よく発達障害のある子たちの支援をしている施設やNPOから「サンタ役」をお願いされることがあった。つまらなそうにそっぽ向いてる男子がいたので、傍に寄り、ドスの効いた声色で「よう少年、ナマのサンタは初めてか?」と超近距離で言ったら、その子は椅子から転げ落ちて爆笑していた。— コミュゲ研(コミュニケーションとゲーム研究会) (@comgame2014) December 26, 2019
加藤:クリスマスの時期はいくつかの取材先でサンタを頼まれ、節分の時は鬼の役もやりました。お菓子作りのワークショップでドラえもんもやったし、夏のキャンプファイヤーでご当地ヒーローに倒される怪人の役もやりました(笑)。もともと子どもたちに楽しんでもらうことが好きな性分なんでしょうね。
― 元々、お勤めの出版社は、特別支援などの専門ジャンルの本を編集する出版社ですか?
加藤:心理・教育領域を専門とする出版社です。ただ、当時は特別支援教育や発達障害の書籍の企画はあまりなかったです。また特別支援教育や発達障害に関わる専門家も限られていて、中には「障害児教育は福祉分野だから関係ない」「発達障害は本人が努力したくないだけ」「親の言い訳」という専門家もいました(今もいますが)。
― それが、発達障害者支援法をきっかけに変わった?
加藤:意識され、情報が求められるようになりましたね。あと、ほぼ同じ時期に自分が編集担当の雑誌で、「通常学級の中の発達障害のある子の支援」についての特集を組んだのですが、それが予想以上に好評を博し、その年の売り上げナンバーワンの号になりました。
― その特集は、加藤さんが企画をしたんですか?
加藤:いえ(笑)。僕は、当時発達障害のことは全く知識がなくて、たまたま担当したというか……ただ、僕の中で「売れてよかった」という思いと別に、「なんで、こんなに売れたのか?」ちょっと納得いかないところがあって。
― 腑に落ちないみたいな?
加藤:ですね。で、その特集で巻頭言を書いてもらった日本自閉症協会会長(当時)の石井哲夫先生(故人)に刊行後の打合せで聞いたんですね。「なんであんなに売れたんですかね?」って。いま考えると失礼千万です(笑)。そこで石井先生に「担当編集者なのに不勉強だ」と怒られていれば、それ以上関わることも無かったと思いますが、石井先生は、「加藤さん、不思議に思うなら、一度自閉症の施設や親の会を見学してみますか?」と仰って……石井先生に誘われるままに、福祉施設や親の会に見学に行き、その先でお会いした先生や親御さんに、また別の施設や学校を紹介してもらい……としているうちに深く関わるようになりました。同時にボランティアもするようになりました。といっても、自閉症のある子どもや青年たちと遊んでいただけですが。スーツ着たまま子どもたちとツリークライミングやったりバーベキューしたり水鉄砲の撃ち合いをしたりしてたら、主催者の親御さんから「うちの息子たちも変わり者だけど、あなたも相当変人よね」と本気で呆れられました。
― いや、とても素晴らしいと思います(笑)
加藤:まあ、ボランティアやるときには、手を抜くことはなかったですね。何分こちらは編集者という支援のド素人です。半端な気持ちで関わっても、一緒に遊んでいる子どもたちに見抜かれると思って、とにかくボランティアだからこそ全力でやっていました。
「まあ1回ぐらいなら」と思って、参加したTRPGのグループ 続けていく内に参加者に!!
― TRPGも、そういったボランティアから始めたのですか?
加藤:そうです。アスペルガー症候群(AS)の成人の方々の余暇支援をされている団体を取材したとき、そこは、いくつかのグループに分かれてめいめいに時間を過ごす活動でしたが、その中にたまたまTRPGやっているASの青年たちがいました。団体の代表の方は「私たちはTRPGが分からなくて、スタッフも活動に入りにくいんです」と困っていたので、「私、TRPGわかりますよ」と言ったら、代表の方が「何ですって!」目を輝かせて(笑)
― それで、ボランティアが始まったんですね。ところで、加藤さん自身はいつ頃からTRPGをされていたのですか?
加藤:初めてTRPGに触れたのは小学生の頃ですね。『ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)』の最初の版、いわゆる「赤箱」の世代です。最初は、友人の家や学校の教室や屋上でクラスメイトとやっていました。プレイしていたのはほとんど『D&D』で、あとは『クトゥルフの呼び声』のボックス版や、『ストームブリンガー』のボックス版とか…言ってて懐かしくなるな(笑)。話を戻すと、その団体のスタッフさんにお願いされて、「まあ1回ぐらいなら」と思って、TRPGのグループに参加しました。グループのAS青年たちも、外部から来た編集者だけどTRPGを知っているということで、温かく迎え入れてくれて。その時に遊んだシステムは私の知らないルール(たぶん「ダブルクロス」だったと思う)でしたけど、彼らにアドバイスしてもらいながら、何とか遊ぶことができました。そうしたら、ゲームマスターをやっていた青年が、「加藤さん、来月もきてくれますか?」と聞かれたので、せっかくお誘いいただいたので、「じゃあ、来月も来ます」と答えたんですよ。この辺りから、取材者というよりも…。
― 参加者ですね。
加藤:ま、完全に「参加者」です(笑)。で、その後は私がゲームマスターをやったりもして、いつの間にか常連のボランティアスタッフになっていました。そこでスタッフとしてTRPGをASの青年たちと遊んでいるうちに、ふと気が付いたことがありました。その団体の活動は、めいめいにグループに分かれて活動する前の準備時間があるんですけども、その時に、TRPGに参加している青年たちは携帯をいじりながらソファーでピョンピョン跳ねていたり、スタッフ相手に自分の好きなネット動画の話を一方的に話し続けたり、他の利用者さんへの苦情をスタッフさんにこれまた一方的に話し続けてたまに大声を上げたり……スタッフさんも大変そうでした。
これはASDのある人のコミュニケーション支援の面で結構重要なことが起きているんじゃないかな
― わかります。僕も経験があるので。
加藤:ところが、そういった青年たちが、TRPG活動の中では、しっかり「やりとり」ができている。人に行動を注意されてもカッとならずに笑い飛ばす。中には、「いや、今のは『プレイヤー発言』です」とか一歩引いた発言もできる。TRPGとしては、むしろ面白い物語が毎回展開されている。TRPGを遊ぶたびに、「ASDって社会性とコミュニケーションの障害、想像力の障害と聞いていたけど、話が違うぞ。これって、何だろう?」と思って……すみません。余暇の話じゃなくて、TRPGの話になっていますね。
― 大丈夫です。
加藤:すみません……で、TRPGの中で起きているASD青年たちの変化を見て、「これはASDのある人のコミュニケーション支援の面で結構重要なことが起きているんじゃないかな」と思いました。ただ、文献を調べてみてもTRPGそのものを研究されている人はいても、教育や支援の現場での実践、とくに発達障害に焦点を当てて研究をしている人はほとんどいなかった。
― 取材をしていく中で、子供たちと一緒に遊んだりする機会が多く、その中で加藤さんとしては徹底的に付き合っていくというスタンスで、相手の事を知るために続けていった。そして、成人グループの取材に行った時に、TRPGをやっている青年たちがいて、彼等は普段はピョンピョンしたりしているのに、TRPGをやっている時に、イキイキと楽しみながらやりとりをしていたという事ですよね?
加藤:あ、もちろん、「ピョンピョン飛び跳ねる」などの行為自体は悪いことではなく、彼らにとって大切な行為だと私個人は思っています。実際、TRPGのときも嬉しいときは椅子で飛び跳ねている時もありました(笑)。ただ、その嬉しい気持ちを、TRPGを通じてグループで共有していた。行為や発話が個人で完結せず、他者との交流につながっている。そこに面白さと不思議を感じました。で、その団体でTRPGをやっていることを聞いた他の専門家の先生たちから、「うちでもやって」と依頼されるようになり、今度は医療機関とかフリースクールなどでも、発達障害の子どもたち(小学生~中学生)とTRPGを遊ぶようになりました。そこでも、周囲で見ている先生方やスタッフさんに「○○君、TRPGを始めてから随分変わりましたよ」と言われて…。
― それは、子供たちの行動が変わるっていう事ですか?それとも、ある意味成長的な意味を込めて変わったという感じですか?
加藤:発達面の変化もあると思いますが、その先生方が仰っていたのは行動面の変化ですね。普段一方的に喋っているような子が、人の話を聞いてから話すようになった、とか。まあ、TRPGは一人が一方的に喋っても物語が進まないですからね。子どももゲームマスターや他のプレイヤーの話を聞いて話をしないと物語が進まないとわかれば楽しむために自然とそうします。そこがソーシャルスキルトレーニングなどの訓練ベースの支援と違うところだと思います。自分が楽しむために、相手の話を聞くようになる。
次回の更新をお待ちください。(4/11更新)
余暇活動の場で聞く彼らの息苦しさ その中で感じた余暇の重要性~加藤浩平さん(コミュゲ研)インタビュー(2/3)
加藤浩平(かとう・こうへい)さんプロフィール
東京学芸大学教育学部研究員・非常勤講師、教育学博士。編集者として専門書(心理・教育)の企画・編集に携わりつつ、発達障害のある子どもや青年たちの余暇活動支援・コミュニケーション支援の研究に取り組んでいる。著書(いずれも共著)に、『自閉スペクトラムの発達科学:発達科学ハンドブック10』(新曜社)、『発達障害のある子の社会性とコミュニケーションの支援』(金子書房)など
加藤さんが代表を務める団体のHP:サンデープロジェクト
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